2021年6月8日火曜日

「キッチン・コンフィデンシャル」


 

「キッチン・コンフィデンシャル」

アンソニー・ボーデイン


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ディスカバリーチャンネルで放送されていた「アンソニー世界を喰らう」

すごく好きで、よく観ていました。

2005年くらいだったでしょうか?

当時私は、料理には全然興味がなかったのですが、アンソニーが好きで観ていました。

いつもタバコ片手に、ふざけたり辛口なのに、なぜかどこに行っても、すんなり現地に馴染んでいて、何とも言えず魅力的。

そう、アンソニーはすごくセクシーなんです。

その後、しばらく私はあまりテレビを観ない時期があったので、「アンソニー世界を喰らう」のシリーズも途中までしか観ていなかったのですが、2018年6月8日、フランスのホテルでアンソニーが自殺したとニュースで知った時は、すごく驚きました。

え?あのアンソニー?

何度ニュースを読み返しても理解できませんでした。

世界中を旅して、美味しい料理を探求し、なんて自由な人なんだ!というイメージがあったので、自殺だったというのが、一番のショックでした。

そして最近になって、偶然、インスタでアンソニーの「キッチン・コンフィデンシャル」を知りました。

テレビではよく観ていたのに、アンソニーが本を書いていたことを私は全然知りませんでした。

1970年後半から2000年にかけて、ニューヨークのレストラン業界の内側を赤裸々に描いた、衝撃の一冊。

この本がきっかけで、テレビ番組を持ったり、一躍有名人となっていったのだと、今更ながらに知りました。

アンソニーが幼少期に食に興味を持つようになった体験や、ヴァッサー大学に入学するも、シェフを目指し料理学校(CIA)に入り直したこと、料理人の世界に入ってからのロックな生活、アンソニーに負けず劣らずのぶっ飛んだ同僚たち、そして知らない方が良かったかもしれないレストランの裏側が描かれています。

この本を読んだら、レストランで月曜日にシーフードは頼めなくなってしまいます。

腕は確かだけど荒くれ者の同僚と、武器にも成り得る料理道具に囲まれた狭い空間で、汚い言葉で罵り合いながら、不測の事態を切り抜け、彼らにしか通じない言葉で、ジャズのセッションのように奇跡のチームプレーを繰り広げる、マッチョな世界。


レストランの風向きが悪くなれば、容赦なく店を移り、仲間を引き抜いたり、手の込んだいたずらを仕掛けたり、かなりワイルド。

問題だらけの仲間に目を光らせ、良い業者を選び、時には大けがをしながらも、お客さんには舞台裏のゴタゴタを一切見せずに美味しい料理を提供し、利益を出さなくてはいけないプレッシャー。

新しいお店の開店を任されれば、短時間で大勢のスタッフを集められる人脈も必要。

料理への情熱だけでは解決できない問題が山積みで、もう人間力の勝負!という感じでした。


風変りな仲間がどんどん登場しますが、なかでも印象的だったのが、パン職人のアダム。

何か悪いことをしたのか、誰も彼の本名はわかりません。

パン作りは天才的だけど、アダムは素行が最悪。アンソニーも彼を何度もクビにしています。

アダムを雇った最初の2,3か月は、おとなしくパンを焼いてくれますが、美味しいと評判になると、今度は、自分が搾取されている!と殉教者モードに突入。

こうなると手がつけられないくらい素行は悪くなり、休みがちに。

でもパン種だけは気になるアダム。そこでボスであるアンソニーに電話を掛けるのです。

「ビッチに飯をやってくれ!」

今の状態のアダムが来るより、自分が代わりにやったほうが良いと判断したアンソニーは、パン種にお湯と小麦とイーストのミックスを入れ、手入れをします。

そして事態はますます悪くなり、もう二度と雇わない!とクビを言い渡します。


でも、しばらく経つと、

雇っています(笑)


きっとそれほど美味しいパンなのでしょう。

あ~、食べてみたい😋


この本でアンソニーも断っているとおり、どのレストランもこうだったわけではないし、レストランで働く人がみんなロックなわけではないと思いますが、アンソニーは好んでそういうところで働いていたことや、ドラッグ漬けだった時期があること、裏切ってしまった人がいることなど、露悪的に書けば書くほど、彼の繊細さが感じられました。

そして何より彼がこの仕事や仲間を愛してやまないことも。


文学や歴史、音楽にも詳しく、アンソニーってこんなに面白い文章を書くんだ!っていう驚きもありました。


テレビを通して、「セクシーな人だなぁ」と感じた理由が、今ようやくわかった気がします。


(私は、この本を図書館で借りたのですが、ペーパーバックのような本で、分厚く、ページには上下左右の余白が少なくて、文字がぎっしり!




一瞬「読み切れるかな?」と不安になりましたが、パッと開いた個所を読んだだけで、グッと引き込まれました。


最後のほうに、「ミッション・トゥー・トーキョー」という章があり、アンソニー初来日の様子が描かれていて、それもまた面白かったです。)


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