「シュヴァル 夢の宮殿をたてた郵便配達夫」
岡谷公次 文
山根秀信 絵
シュヴァル 夢の宮殿をたてた郵便配達夫 (たくさんのふしぎ傑作集) 中古価格 |
いまから100年ほどまえ、フランスのオートリーヴという小さい村に、ひとりの郵便屋さんが住んでいました。名前をフェルディナン・シュヴァル、無口な、あまり人とつきあわない、ちょっと変わった人でした。
まだ車も、オートバイも、自転車もない時代です。郵便屋さんは朝から晩まで歩きまわらねばなりません。シュヴァルは毎日30キロ以上は歩きました。
「毎日同じ景色のなかを歩くとき、なにかすることがあるだろうか、空想することのほかに?私は空想した。なんのことを? と読者はおたずねになるだろう。よろしい、お答えしよう。わたしは、思いつくかぎりのふしぎな宮殿や、城、塔や、洞窟や、庭のことを空想した」
シュヴァルの空想のもとになったのは、当時流行の絵入り雑誌によくのっていた、植民地帰りの人たちの旅行記、とくにそれにそえられていたさし絵でした。
郵便配達をはじめて13年、シュヴァルは43歳になっていました。
シュヴァルは郵便配達の途中、石につまずいてころんでしまったのです。立ちどまり、自分をつまずかせた石をよく見たところ、あまりにもその形が変わっているので、家に持って帰りました。大きな眼をつきだした怪獣のような石なのです。地のなかでだんだんと育って、ある日ひょっこり地面から顔を出したというふうです。人間の知らないところで、自然がひそかにつくりだしたふしぎな彫刻でした。
つぎの日、同じ場所を通ったとき、注意してみると、ほかにも形のおもしろい石がいくつも見つかりました。シュヴァルはすっかり興奮し、心のなかで叫ぶのでした。「自然が彫刻をつくってくれるなら、わたしはそれを使って建築しよう!」と。
「シュヴァル 夢の宮殿をたてた郵便配達夫」より参照
こうして、シュヴァルの宮殿作りが始まりました。
毎日、郵便配達の途中や、仕事が終わった後に、たくさんの石を集め、独学で宮殿を作り始めたのです。
小さな村で、村の人からは「頭がおかしくなった」と思われますが、そんなことは気にせず、宮殿作りに没頭。
作り始めてから33年後、シュヴァル76歳のときに、宮殿は完成しました。
シュヴァルの理想宮は1969年フランス政府の重要建造物に指定されたそうです。
この絵本は、
美しい絵とともに、
シュヴァルの宮殿の写真も載っているので、
大人も子どもも楽しめる一冊だと思います。
一方、2019年に公開された映画、
「シュヴァルの理想宮 ある郵便配達員の夢」
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シュヴァルの「作らずにはいられない」という、
すごく切迫した気持ちが伝わってきます。
無口で偏屈なシュヴァルが、一心不乱に宮殿を作っている姿は、胸を打たれました。
その時間、
9万3000時間!
43歳からでも、独学でも、なんでもできるんだなぁと、改めて思いました。
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